白洲次郎著 「プリンシプルのない日本」(新潮社 平成18年)より、備忘録的抜粋、その1
…、英国にいて一番気持の好いのは、身分に関係なくお互いに人間的な尊厳を払うことだ。(p.23)
英国では会社の社長に給仕がお茶を持ってきたら、必ず「ありがとう」という。当り前のことだが気持が好い。日本でも子供に親がもっとこういうことを教えなければいけない。これがほんとうの民主教育というものだと、僕は思う。(p.24)
戦争前に一年に一万噸売っていたが、今、五千噸だから、もう五千噸頑張らなくちゃ、という式の議論はバカげている。又戦争前にこういう事業があったが、今はダメになっているからこれをなんとかしなくては、という議論もバカげている。どういう産業が適当な輸出産業かということは今から決まることで、戦前の実績は何等の指針にもならない。(p.25)
イデオロギーというものは、あくまでも自分の思想というものが出発点となってでき上がったものの筈だ。ところが日本の政治家を見てるのに、なんかひょっとしたはずみに本で読んだり、人に聞いたりしたことを全部鵜呑みにして暗記するらしい。それが彼のイデオロギーなんだ。彼の政治思想というものが彼にあるなら、それは別問題なのだ。…略…、彼等にとってイデオロギーというものは単なる道具なのだ、自分じゃ思想だと思っている。だからはっきりいえば、彼等には思想がないのだ。(p.32)
昔の人はわれわれと違って、出るべきところに出ると、堂々とした風格を出したものだ。(p.41)
方々辺鄙な地に駐在することを余儀なくされている人々の子供の教育のことは、会社の経営者としては出来得るだけのことをする義務があると考える。未だ充分なことをするに至らないのはこの義務を怠っていると考えるので、こういう子供達を見る度に鞭打たれる様な気がしてならない。殊に吾々の時代に、この馬鹿な戦争をして元も子も無くして了った現在、次の時代に来る人々のためには幾許でもこの負担を軽くして、少しでももっと明るい世の中にして次の時代に引継ぐ義務をも感じる。(p.46)
私は占領中に、最下等のパンパンすら風上に置くまいと思われる様な相当な数の紳士(?)を知っている。軍国主義全盛時代は軍人の長靴をハンカチで拭き、占領中は米国人に媚びた奴等とパンパンとどう違うか。私はパンパンを非難攻撃するのなら彼等男性も排撃せよといい度い。…略… 非難はもっと冷静な立場に於てあるべしと思うだけである。(p.55)
弱い奴が強い奴に抑え付けられるのは世の常で致し方なしとあきらめもするが、言うこと丈けは正しいことを堂々と言って欲しい。その後で言い分が通らなくても何をか言わんやだ。その時のくやしさも又忘れぬがよい。力が足らんからなのだ。力をつくって今に見ていろという気魄を皆で持とうではないか。(p.63)
戦争はもうコリゴリだというのが、国民の偽らざる気持である。軍備は戦争につながり得る。さわらぬ神に祟りなしという心理が、圧倒的ではあるまいか。(p.86)
こういう例は戦前にも数多あった。当時日本で外国のことを賞めると評判が悪かったので、みんな異口同音に、日本が一番、外国に学ぶ処は皆無と言ったではないか。こういう種類の狭い国粋論と一人よがりの馬鹿さ加減が戦争開始に貢献(?)したことは多大であったとも言える。(p.98)
現在の日本の復興ふりなどということは、言わばクリスマス・ツリーみたいなもので、飾り付けて豆電気がついて色々のものがぶらさげてあって、見ると本当に綺麗なものだが悲しい哉あのクリスマス・ツリーには根がない。あの木は育たない、あの木はきっと枯れる。本当はツリーでなくてただの枝みたいなものだから。(p.100)
大体八方美人的のことが多すぎる。評判を気にしたり、みなに評判がよくなりたい様な御歴々も多過ぎる(この議論をほんとはもっともっとやりたいのだが、我田引水的にとられると片腹いたいから好い加減にしとくことにする)。今や我が国は存亡の秋に直面しているのだから、ほんとに国家のことを考えて、ガムシャラに邁進する様な人々が指導者の地位に就くべきではないだろうか。(p.101)
吾々の時代にこの馬鹿な戦争をして、元も子もなくした責任をもっと痛烈に感じようではないか。日本の経済は根本的の立直しを要求しているのだと思う。恐らく吾々の余生の間には、大した好い日を見ずに終るだろう。それ程事態は深刻で、前途は荊の道である。然し吾々が招いたこの失敗を、何分の一でも取返して吾々の子供、我々の孫に引継ぐべき責任と義務を私は感じる。(pp.108-109)
敗戦後占領軍の圧力で新憲法を押付けられたついでに、沢山の皇族が整理されて、親王家だけが皇族として残ることになった。親王は一生親王であるに拘わらず、内親王は結婚すると○○夫人となり下がり、ただの平民となる様だが、これは男女同権ではない様だ。(p.116)
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